概要
減価償却費の計上について解説する。月々の償却費を計上する償却記帳プログラムでは、細かな設定が色々とあるため、まずはさっと読み流して実機操作で基本を理解していただきたい。
カスタマイズ、トランザクションコード
- OABN – 設定: 償却領域(通常償却)
- OABS – 設定: 償却領域(特別償却)
- OABU – 設定: 償却領域(臨時償却)
- AO71 – 定義: 償却転記の伝票タイプ
- OAYR – 定義: 周期/転記ルール
- AO90 – 割当: 総勘定元帳勘定
- AO93 – 設定: 勘定(通常償却)
- AFAMA – 更新: 償却キー
- AFAMS – マルチレベル方法
- AFAMP – 期間管理方法
- ACSET – 指定: 勘定割当対象の勘定割当タイプ
- AFAB – 償却記帳
減価償却費の計上(償却記帳)
処理:償却記帳プログラム(償却記帳)
償却記帳プログラムの概要
償却記帳プログラムは、通常償却や臨時償却、金利などの償却転記を総勘定元帳に転記(FI伝票を転記)するための処理である。
まず、押さえておくべきポイントは、償却費のFI伝票転記のタイミングである。通常償却や臨時償却などの償却費は、取引入力のタイミングではFI伝票登録はされない。取引入力時は、あくまで予定値(計画値)として登録され、償却記帳によってFI伝票が登録される。
※総勘定元帳への統合のカスタマイズでは、償却費が定期転記しか選択できなかったことを思い出して欲しい。
また、FI伝票の登録に伴って後続の領域に対する伝票登録も行われる。たとえば、減価償却費を原価センタ会計に流す管理会計伝票が同時登録される。
【補足】旧償却エンジン、新償却エンジン
あまり重要ではないが、SAPのバージョンによって償却費の計算方法が変わっている。バージョンアップなどで償却費の金額が変わった場合は、償却方法が変わっている可能性を考慮できると解決するかもしれない。
- 旧償却エンジン(ECC 6.0より前)
- 1年分の減価償却費を計算する。取引を行うたびに計算し、1年分の計算値から引いていく。
- 新償却エンジン(ECC 6.0以降)
- 取引を行うたびに期間範囲ごとの減価償却費を求めて管理する。各期間範囲の計算値を足していく。
カスタマイズ:償却領域
実償却領域、派生償却領域
償却領域についてだが、実償却領域と派生償却領域に分けられることを理解しておこう。
- 実償却領域
→普通の償却領域。資産マスタに償却キーを割り当てて償却計算を行う。 - 派生償却領域
→実償却領域と実償却領域の差額を管理する。
償却タイプ
償却タイプとは、償却費の種類のこと。次の4種類が存在する。通常償却と臨時償却を押さえておけばよい。
- 通常償却
通常の消耗に起因する償却費。月々に発生する減価償却費を指す。 - 特別償却
国で認められている特別償却の償却費。通常の償却費に加え、資産価額に対して一定の割合で償却する。 - 臨時償却
資産の破損など、通常の消耗と異なる価値の減少。資産の価額が恒久的に減少する場合に利用する。 - 生産高比例償却
生産高比例法に伴う償却費。たとえば機械の生産数に応じて償却する場合に利用する。
償却領域ごとにどの償却タイプの償却費を計上できるか、カスタマイズで制御している。
【カスタマイズ】
・通常償却:「設定: 償却領域(Tr-Cd:OABN)」
・特別償却:「設定: 償却領域(Tr-Cd:OABS)」
・臨時償却:「設定: 償却領域(Tr-Cd:OABU)」
カスタマイズ:償却キー
償却キーは、償却の方法(定額法、定率法など)を制御している。たとえば、SAP標準で用意されている償却キーに以下がある。
【償却キー】 | JL05 定額5年 | JL10 定額10年 | JD10 定率10年 | 項目の説明 |
---|---|---|---|---|
基準方法 | 0014 | 0014 | 0014 | 減価償却を計算するための基準 ※あまり気にしなくてよい |
定率法 | 001 | 001 | 001 | 日本では使っていない項目 ※マルチレベル方法で償却方法を制御 |
最大限度額方法 | (空白) | (空白) | (空白) | 償却キーの最大額方法 ※あまり気にしなくてよい |
処分価額キー | JPS | JPS | JPS | 減価償却できる金額を割り出す 絶対残存価額を入力していない場合に有効 |
マルチレベル方法 | 074 定額5年 | 079 定額10年 | 013 定率10年 | 償却方法を決めている |
期間管理方法 | 004 | 004 | 004 | 償却費を計算する期間を決めている |
マルチレベル方法:AFAMS
マルチレベルは、具体的な償却費の計算方法を制御している。端的に説明すると、「基準値 ×(1 – 引下げ)× 率」となる。
マルチレベル方法 | 基準値 | 率 | 引下げ |
---|---|---|---|
[074]定額5年 | [01]取得価額 | 20% | 10% |
[079]定額10年 | [01]取得価額 | 10% | 10% |
[013]定率10年 | [24]帳簿価額 | 20.6% | (空白) |
期間管理方法について:AFAMP
期間管理方法は、償却費を計算する期間を決めている。
取得、再取得は、いつから減価償却するかを制御している。たとえば、「[01]期間開始日」を設定し、4/15(資産評価日)に資産の取得を行った場合、4/1から減価償却を計算開始する。
また、除却、振替は、いつから減価償却しないのかを制御している。たとえば、「[11]翌月」を設定し、4/15(資産評価日)に資産の除却を行った場合、4/30まで減価償却を計算する(5/1から減価償却を計算停止する)。
つまり、償却費の計算期間は、償却キーの期間管理方法と資産評価日によって決定する。
カスタマイズ:まとめ
償却記帳に必要な設定
償却領域
- SPRO>財務会計>固定資産管理>評価>償却領域>定義: 償却領域
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>通常償却>設定: 償却領域(Tr-Cd:OABN)
伝票タイプ、勘定設定、転記周期
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>割当: 総勘定元帳勘定(Tr-Cd:AO90)
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>総勘定元帳への償却転記>定義: 償却転記の伝票タイプ(Tr-Cd:AO71)
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>総勘定元帳への償却転記>定義: 周期/転記ルール(Tr-Cd:OAYR)
償却キー
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>評価方法>償却キー>更新: 償却キー(Tr-Cd:AFAMA)
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>評価方法>償却キー>計算方法>マルチレベル方法(Tr-Cd:AFAMS)
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>評価方法>償却キー>計算方法>期間管理方法(Tr-Cd:AFAMP)
勘定割当タイプの指定に必要な設定
勘定割当タイプ
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>追加勘定割当対象>有効化: 勘定割当対象
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>追加勘定割当対象>指定: 勘定割当対象の勘定割当タイプ(Tr-Cd:ACSET)
資産マスタ:償却条件(償却パラメータ)の時間依存性
以下の償却に関するパラメータは、時間依存で変更できる。
※時間依存データとは、履歴管理される項目。10-3.固定資産-資産マスタ-参照。
- 償却キー
- 耐用年数(年または期間)
- 可変償却部分
- 絶対残存価額
- 比率残存価額
資産の償却額を変更する場合に、上記の項目を適宜変更する。
カスタマイズ操作方法
償却記帳プログラムを実行し、償却費のFI伝票が登録されることを確認する。なお、実施ステップはカスタマイズや設定をした後に償却記帳プログラムを実行しているが、機能理解を優先する場合は償却記帳プログラムを先に実行してもらって構わない。
なお、演習における資産マスタの前提は以下とする。
事前確認、設定
償却記帳を実施する資産に対して、カスタマイズ、各種設定を確認する。
償却領域の確認・変更:OABN、AO93
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>通常償却>設定: 償却領域(Tr-Cd:OABN)を起動する。
- [01]帳簿価額の通常償却をONにして、保存する。
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>通常償却>設定: 勘定(Tr-Cd:AO93)を起動する。
- 勘定設定「[Z100]機械」を選択し、以下の勘定を設定して、保存する。
- 通常原価の減価償却累計額勘定:機械装置償却累計
- 通常償却の費用勘定:減価償却費
償却キーの確認:AFAMA、AFAMS、AFAMP
- SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>評価方法>償却キー>更新: 償却キー(Tr-Cd:AFAMA)を起動する。
- 償却キー「[JL05]定額法5年」を選択し、画面左の割当: 計算方法をダブルクリックする。
→マルチレベル方法「[074]定額法5年」、期間管理方法「004」であることを確認する。 - SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>評価方法>償却キー>計算方法>マルチレベル方法(Tr-Cd:AFAMS)を起動する。
- マルチレベル方法「[074]定額法5年」を選択し、画面左のレベルをダブルクリックする。
→基準値「[01]取得価額」、率「20%」、引下げ「10%」であることを確認する。 - SPRO>財務会計>固定資産管理>減価償却>評価方法>償却キー>計算方法>期間管理方法(Tr-Cd:AFAMP)を起動する。
→期間管理方法「004」の取得に「[01]期間開始日」が設定されていることを確認する。
時間依存の償却パラメータ確認
- 資産マスタ(Tr-Cd:AS03)を起動し、「償却確認用資産」を照会する。
- 償却領域タブをクリックする。
- 償却領域「[01]帳簿価額」に対する償却パラメータを確認する。
- 償却キー:[JL05]定額法5年
- 耐用年数:5年
- 通常償却開始日:2000/04/01
伝票タイプの確認:AO71
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>総勘定元帳への償却転記>定義: 償却転記の伝票タイプ(Tr-Cd:AO71)を起動する。
- 定義: 償却転記の伝票タイプ を選択する。
- 会社コード「1000」に伝票タイプ「[AF]償却記帳」を入力して、保存する。
償却費の転記タイミング(周期)を確認:OAYR
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>総勘定元帳への償却転記>定義: 周期/転記ルール(Tr-Cd:OAYR)を起動する。
- 会社コード「1000」>償却領域「[01]帳簿償却」に対して、「月次転記」をONにして保存する。
償却記帳プログラムの実行:AFAB
償却記帳の前に、資産の状況を確認しておく。
- 資産エクスプローラ(Tr-Cd:AW01N)にて、資産を確認する。
→「計画価額」タブで通常償却が「1,800(円)」であることを確認する。 - 「記帳額」タブをクリックする。
→通常償却が「0(円)」であることを確認する。
画面下部の償却費のステータスが計画済(つまり未転記)であることを確認する。
償却記帳を実行する。
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>固定資産管理>償却記帳>実行(Tr-Cd:AFAB)を起動する。
- 以下のデータを入力し、テスト実行する。
会社コード | 1000 |
会計年度 | 2000 |
会計期間 | 1 |
テスト実行 | ON |
資産 | (「償却確認用資産」の資産番号) |
- 通常償却が150円(1月分)処理されていることを確認する。
- 前画面に戻り、テスト実行をOFF、資産を空白にし、バックグラウンド実行する。
- ジョブ確認(Tr-Cd:SM37)で、ジョブを確認し、伝票番号を確認する。
- 伝票照会(Tr-Cd:FB03)などで伝票を照会する。
→減価償却費/機械装置償却累計 の仕訳が登録されていることを確認する。 - メニューバー>伝票関連処理>会計伝票 を選択する。
→管理会計伝票が登録されていることを確認する。 - 資産エクスプローラ(Tr-Cd:AW01N)にて、資産を照会する。
- 「記帳額」タブをクリックする。
→通常償却が「150(円)」であることを確認する。
画面下部の償却費のステータスが、1期のみ転記済であることを確認する。 - 転記済の1期をダブルクリックする。
→償却記帳のログ画面に遷移することを確認する。
テーブル
テーブルID | 内容説明 | 備考 |
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