概要
本ページ以降は、固定資産管理についての解説が続く。初回は、固定資産管理を利用するために必要な組織構造マスタ(会社コード、勘定コード表、償却表)について解説する。
カスタマイズ、トランザクションコード
- EC08 – コピー: 参照償却表/償却領域
- OAOB – 割当: 償却表→会社コード
- OADB – 定義: 償却領域
- OAYN – 定義: 資産レポートの財務諸表バージョン
- OAYH – 定義: 外貨の償却領域
固定資産管理
財務会計における固定資産管理の位置づけ
財務会計の主要モジュールは、以下のとおり。
- GL:総勘定元帳
- AR:債権管理
- AP:債務管理
- AA:固定資産管理
- BL:銀行管理
※SAPの全体像として参考になりそうなリンクを貼っておく。
固定資産の種類
SAPで扱う固定資産とは、以下のものを指す。
- 有形固定資産
- 無形固定資産
- その他の資産(金融資産など)
固定資産に関する組織系マスタ
固定資産で新たに登場するマスタとして償却表と償却領域がある。まずはそれぞれの関係性を図示しておく。
償却領域
償却領域は、固定資産の金額を管理する単位である。帳簿価格用、税務用、IFRS用など。固定資産×償却領域ごとに減価償却費の計算を分けられる。たとえば、建物の償却費を帳簿価格用だと1,000円で計上、税務用だと500円で計上、といったように分けて管理できる。これによって要件に応じた償却費の管理ができる。
ポイントを軽くまとめておく。
- 償却領域「01」は、リーディング償却領域と呼ばれる。サンプル償却表におけるその国固有の会計原則が反映されている。
- リーディング償却領域以外の償却領域には、目的に応じて定義する。(IFRS用、税務用など)
- 固定資産ごと、償却領域ごとに償却方法(償却キー、耐用年数)を指定する。
償却表
償却表は、各国で必要な減価償却のルールをまとめたものである。ただ、設定する項目はコード値くらいで、次に紹介する償却領域をとりまとめたものという認識でよい。
また、償却表は会社コードに割当するが、1つの会社コードに対して1つの償却表のみ割当できることを注意しておこう。
SAPでは、様々な国のテンプレートを用意しているので、テンプレートの償却表をコピーして作成する方法がベター。テンプレートをコピーすると、償却表に紐づく償却領域や償却キーがまとめてコピーされる。
償却キー
償却キーは、償却費の計算方法をまとめたもの。定率法で償却するのか、定額法で償却するのか、といった設定を保持している。詳細は、別ページにて説明する。
管理会計対象の割当
管理会計対象の割当とは、端的に言うと固定資産に原価センタ、内部指図を割当すること。
固定資産の処理によって発生する伝票、たとえば「減価償却費 / 減価償却累計額」という仕訳を管理会計に流すためには、減価償却費の明細に原価センタを入力する必要がある。この減価償却費の原価センタを自動で入れるために、固定資産に原価センタ(管理会計対象)を割当しておきましょうという話。SAPの用語は、なんてわかりにくいんでしょう。
さて、この資産マスタに割当できるCO対象は以下のとおり。
- 原価センタ
- 内部指図
- 活動タイプ
なお、資産に対してCO対象を2つ割当することはできない。(たとえば、原価センタ1と原価センタ2を同じ資産に割当できない、という意味。原価センタと内部指図を割当する、というのは可能。)
これを解決する方法が、内部指図の決済である。
減価償却費をひとまず内部指図に溜めておき、内部指図から各原価センタへ減価償却費を振り替えるというもの。このとき、内部指図から複数の原価センタへの振替が可能である。この振替をSAPでは決済と呼んでいる。
総勘定元帳へのデータ連携(総勘定元帳との統合)
まず、押さえておくべきは、固定資産管理で扱う金額は2種類あること。
減価償却 | ・減価償却の金額。 ・G/Lにデータを流すには、必ずプログラムを実行する必要がある。 そのため、連携タイミングは定期的にプログラムを実行するタイミング。 |
資産価額 | ・減価償却以外の金額。取得価額、売却益、売却損、廃棄損など。 ※SAP実機では、「取得価額(APC)」と記載されていることもあるが、 これも取得価額だけでなく減価償却以外と捉えてよいだろう。 ・G/Lへのデータ連携は、プログラムによる連携だけでなくリアルタイムも可能。 |
表のとおり、減価償却と資産価額ではデータ連携できるタイミングが異なる。償却領域ごとに減価償却、資産価額をいつG/Lにデータ連携するのか、そもそもG/Lにデータを流さないのかを決めている。
各償却領域ごとに、以下のいずれかの区分を選択する。
転記方法 | 備考 | |
---|---|---|
0 | 領域による転記なし | 減価償却、資産価額ともに転記なし |
1 | 領域によるリアルタイム転記 | 減価償却は定期的、資産価額はリアルタイムで転記 |
2 | 領域による定期的な資産価額と減価償却の転記 | 減価償却、資産価額ともに定期的に転記 ※S/4では選択できなくなっている |
3 | 領域による減価償却のみ転記 | 減価償却は定期的、資産価額は転記なし |
4 | 領域による資産価額の直接転記、減価償却の定期的な転記 | 減価償却は定期的、資産価額はほぼリアルタイムで転記。 ほぼリアルタイムとは、取引したタイミング(例:資産取得時)での転記となる。 |
パラレル会計における償却領域の設定
少し発展した話になるが、パラレル会計における償却領域の設定について説明する。そもそもパラレル会計がわからない人は、以下を参照。
※9-2.パラレル会計-複数勘定アプローチ
※9-3.パラレル会計-複数元帳アプローチ
- 複数勘定アプローチ
- 償却領域ごとに使用する勘定コードを変えることで実現する
- データの登録:償却領域ごとにデータ登録する勘定コードを変える
例:日本用償却領域→減価償却費-日本
IFRS用償却領域→減価償却費-IFRS
- データの照会:財務諸表バージョンを日本用、IFRS用で分ける
※それぞれにG/L勘定コードを割当しておく
例:日本用財務諸表バージョン→減価償却費-日本 を出力する
IFRS用財務諸表バージョン→減価償却費-IFRS を出力する
- 複数元帳アプローチ
- 償却領域に対して元帳グループを割り当てることで実現する
※データの登録、照会については複数勘定アプローチの勘定を元帳に変えただけ - ただし、欲しい金額が欲しい元帳に対してのみ流れるわけではない
たとえば、償却領域「01」は減価償却の金額以外がすべてG/Lに流れる
→償却領域にG/Lを割り当てるのではなく、ウィザードを使用する
【SPRO>財務会計>固定資産管理>評価>償却領域>定義: パラレル評価領域】
- 償却領域に対して元帳グループを割り当てることで実現する
カスタマイズ操作方法
償却表、償却領域のコピー:EC08
まずは、標準で用意されているサンプルの償却表をコピーする。この処理によって、償却表に紐づく償却領域もコピーされる。
- SPRO>財務会計>固定資産管理>組織構造>コピー: 参照償却表/償却領域 を起動する。
- コピー: 参照償却表 を選択する。
- メニューバー>組織オブジェクト>組織オブジェクトコピー を選択する。
- 以下のデータを入力して、Enterを押下する。
→コピーが実行されたことを確認し、前画面に戻る。
償却表(コピー元) | [0JP]サンプル償却表:日本 |
償却表(コピー先) | Z0JP(任意) |
続いて、償却表の名称を変更する。
- 同じく コピー: 参照償却表/償却領域 を起動する。
- 指定: 償却表明 を選択する。
- 償却表「Z0JP」の名称を変更して、保存する。(例:日本償却表)
不要な償却領域を削除する
- 同じく コピー: 参照償却表/償却領域 を起動する。
- コピー/削除: 償却領域 を選択する。
- 償却表「Z0JP」を入力して、Enterを押下する。
- 以下の償却領域を残し、その他の償却領域を削除して、保存する。
償却領域 | 償却領域名 | 会計基準 |
---|---|---|
1 | 帳簿償却 | GAAP |
15 | 税務 ※名称を変更する | GAAP |
償却表を会社コードに割当:OAOB
- SPRO>財務会計>固定資産管理>組織構造>割当: 償却表→会社コード を選択する。
- 会社コード「1000」の償却表に「Z0JP」を入力して、保存する。
償却領域からG/L(総勘定元帳)への転記を確認する
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>定義: 転記方法(償却領域→総勘定元帳) を選択する。
- 償却領域「[1]帳簿償却」のG/Lが「領域によるリアルタイム転記」となっていることを確認する。
償却領域に財務諸表バージョンを割当する:OAYN
- SPRO>財務会計>固定資産管理>総勘定元帳との統合>定義: 資産レポートの財務諸表バージョン を選択する。
- 会社コード「1000」を選択して、画面左の財務諸表バージョン割当をダブルクリックする。
- 以下のデータを入力して、保存する。
※財務諸表バージョンは、9-4.決算処理、財務諸表バージョンにて登録済みの前提。
償却領域 | 償却領域名 | 財務諸表バージョン |
---|---|---|
1 | 帳簿償却 | 1000 |
15 | 税務 | 1000 |
償却領域の通貨を設定する:OAYH
- SPRO>財務会計>固定資産管理>評価>通貨>定義: 外貨の償却領域 を選択する。
- 会社コード「1000」を選択して、画面左の償却領域通貨をダブルクリックする。
- 以下のデータを入力して、保存する。
償却領域 | 償却領域名 | 通貨 |
---|---|---|
1 | 帳簿償却 | JPY |
15 | 税務 | JPY |
テーブル
テーブルID | 内容説明 | 備考 |
---|---|---|
V_T093C_00 | 資産管理の会社コード更新 | |
ANKA | 資産クラス: 一般データ | |
ANKB | 償却領域 | |
ANLC | 資産価格項目 |
演習問題
※複数回答の設問あり。
※答えはドラッグすると見れる。
資産マスタに割当できる管理会計対象は、次のどれか。
A. 原価センタ
B. 利益センタ
C. セグメント
D. 活動タイプ
E. 内部指図
正解:ADE
1つの資産に対して、その資産から発生する減価償却費を2つの原価センタに振り分けたい。どのように設定するか。
A. 該当資産に2つの原価センタを割当する
B. 原価センタと利益センタを割当し、利益センタから原価センタへデータを連携する
C. 内部指図を割当し、内部指図から2つの原価センタへ決済する
正解:C
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