概要
決算期における処理のひとつ、外貨評価について解説する。
カスタマイズ、トランザクションコード
- F.05 – 外貨評価
- FAGL_FC_VAL – 外貨評価
- FAGL_FCV – 外貨評価
- OBA1 – 準備: 外貨評価自動仕訳
- OB09 – 未消込明細換算差損益用の勘定設定
外貨評価
外貨評価(外貨評価プログラム)とは
決済日時点で消込されていない外貨で取引された売掛金等を、国内通貨に換算する処理。外貨の残高を決済日時点で国内通貨に評価し、財務諸表に載せるために利用する。
売掛金や買掛金を決算日時点のレートで評価し、財務諸表に反映させるのだが、このとき売掛金を直接増減させるのではなく、調整勘定を使用して売掛金の増減額を処理する。
なぜなら売掛金は統制勘定なので、得意先補助元帳を通してのみ計上可能である。そのため、外貨評価では「調整勘定」というG/L勘定を使用して売掛金の増減を管理する。
SAP的な言い方をすると、補助元帳に影響を与えず、外貨評価の仕訳は総勘定元帳に対してのみ行う。
また、この調整勘定は売掛金とは別のG/L勘定コードを用いるので、財務諸表バージョンで売掛金と同じノードに割当する必要がある。
外貨評価プログラムのトランザクションコード
外貨評価実行のトランザクションコードは、以下のとおり。
- Classic GLの場合:F.05
- New GLの場合:FAGL_FC_VAL
- EHP5以降:FAGL_FCV
外貨評価では、次のステップで処理を行う。(詳細は後述)
- 提案一覧
- 貸借対照表基準日における評価
- 標準ロジックの場合: 貸借対照表基準日における評価 + 反対仕訳
- 差分転記ロジックの場合:貸借対照表基準日における評価
外貨評価の対象:2種類(未消込明細、外貨建貸借対照表勘定)
外貨評価の対象となる勘定は2パターンに分かれる。明細消込管理のあり/なしによって、次の通りに分類される。
- 明細消込管理あり:SAPでは「未消込明細」という
- 明細ごとに外貨評価する
- 明細消込管理なし:SAPでは「外貨建貸借対照表勘定」という
- 残高に対して外貨評価する
パターンによって処理が異なるため、それぞれ見ていこう。
未消込明細の外貨評価
未消込明細については、前述のとおり明細ごとに決済日時点の換算レートで外貨を評価する。
また、決算日の翌日に反対仕訳を打つ運用(標準ロジック)と反対仕訳を打たない運用(差分転記ロジック)が選べる。
標準ロジックと差分転記ロジック
SAP標準の外貨評価では、外貨評価によって登録された伝票は、翌月1日に同じプログラムによって自動的に反対仕訳される。
ただし、国によっては年度を跨いだ反対仕訳が禁止されている。その場合、評価転記の反対仕訳をしない差分転記ロジックで運用する。(カスタマイズ:SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>デルタロジック有効化)
また、月次は標準ロジック、年度末は差分転記ロジックとすることも可能。その場合は、差分転記ロジック有効化のカスタマイズで「月次Rev.(月次反対仕訳許可)」をONにする。ONにすると、伝票入力時に標準ロジックor差分転記ロジックを選択できるようになる。
※伝票登録時に、「会計年度中評価(標準ロジック)」、「年度末評価(差分転記ロジック)」が表示される。
明細消込管理なしの外貨評価
明細消込管理のない外貨評価は、未消込明細に比べてシンプルである。ポイントは以下2点。
- 残高に対して外貨評価を行う
明細単位ではなく、残高に対してまとめて外貨評価を実施する。 - 調整勘定を使用せずその勘定に直接計上
未消込明細と違って調整勘定を使用しない。そのため、G/L勘定の残高を直接増減させる。このとき、損益差益と差益勘定を用意して実施する。(カスタマイズは後述)
外貨評価に関するカスタマイズ
評価領域
まず、外貨評価プログラムは評価領域単位で実行する。
評価領域は、評価方法(外貨評価する方法を決めている)や、評価した仕訳を反映させる元帳を定義している。
後述するが、複数元帳アプローチを採用している場合、評価領域を元帳ごとに用意し、評価領域の数だけ外貨評価を実施する。
評価方法
評価方法は、外貨の評価手順や、換算に使用する換算レートタイプを設定しているマスタ。
評価手順
評価手順は、評価差額の仕訳を起こす条件を決めている。以下から選択する。
低価法 | 取引時レートと比較し、差損が出た時だけ仕訳を起こす |
強制低価法 | 評価結果(現在BSにのっている結果)と比較し、差額が出た時だけ仕訳を起こす |
常時評価法 | ※「再評価」と表記されている場合あり 差益、差損ともに仕訳を起こす |
再評価のみ | 差益のみ仕訳を起こす |
換算レートタイプ
たとえば、決済日の 日本円-USドル の換算レートはひとつではない。換算レートタイプによってレートは異なる。どの換算レートタイプを使うかを評価方法で定義している。
※換算レートタイプについては、財務会計(FI)1-4.通貨、換算レートを参照。
評価差損益の勘定コード:OBA1
評価差額の損益勘定、および調整勘定は、以下のカスタマイズ(Tr-Cd:OBA1)で設定する。
【SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>外貨評価>準備: 外貨評価自動仕訳】
- 未消込明細の外貨評価
- 内部処理キー:KDF(換算レート差損益: 見消込明細/GL勘定)で設定
※もしくは、SPRO>財務会計>債権管理および債務管理>会計トランザクション>銀行支払>銀行支払共通設定>定義: 換算差損益勘定(Tr-Cd:OB09)
- 内部処理キー:KDF(換算レート差損益: 見消込明細/GL勘定)で設定
- 明細消込管理なしの外貨評価
- 内部処理キー:KDB(換算レートキーによる換算レート差損益)で設定
【Advance】複数元帳アプローチの外貨評価
外貨評価は元帳ごと(正確には元帳グループごと)に実施する。つまり、複数元帳アプローチで元帳が2つあれば、2回外貨評価を実施する。
※参考:財務会計(FI)9-3.パラレル会計-複数元帳アプローチ
このとき、外貨評価は評価領域単位で実施する。たとえば、日本用の元帳とIFRS用の元帳がある場合は、日本用の評価領域とIFRS用の評価領域を用意して、それぞれで外貨評価を実施する。
【カスタマイズ】
- 評価領域
SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>定義: 評価領域 - 評価方法
SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>定義: 評価方法 - 会計原則
SPRO>財務会計>財務会計共通設定>元帳>パラレル会計>定義: 会計原則
SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>割当: 評価領域および会計原則 - 元帳の会計原則割当
SPRO>財務会計>財務会計共通設定>元帳>パラレル会計>割当: 会計原則→元帳グループ
カスタマイズ操作方法
標準ロジック(差分転記ロジックを利用しない)で未消込明細の外貨評価を実施する。
- 評価領域、評価手法の登録
- 差分転記ロジックのカスタマイズ登録
- 評価差損益の勘定コード登録
- 外貨での得意先請求書を登録する:FB70
- 外貨評価の実行:FAGL_FC_VAL
- 各種照会
評価領域、評価手法の登録
評価領域の登録
- SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>定義: 評価領域 を起動する。
- 以下のデータを入力して、保存する。
評価領域 | Z1 |
評価手法 | (後で入力) |
通貨タイプ | [10]会社コード通貨 |
評価方法の登録
- SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>定義: 評価方法 を起動する。
- 「新規エントリ」をクリックする。
- 以下のデータを入力して、保存する。
評価方法 | Z001 |
テキスト | 常時評価(任意) |
評価手順 | 常時評価法 ※「再評価」となっている場合あり |
伝票タイプ | [SA]総勘定元帳 |
借方残高の換算レートタイプ | M |
貸方残高の換算レートタイプ | M |
ヘッジ使用 | OFF |
勘定残高の換算レートタイプ設定 | ON |
評価方法の割当
- SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>定義: 評価領域 を起動する。
- 評価領域「Z1」の評価手法「Z001」を入力して、保存する。
評価領域に会計原則を割当
- SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>割当: 評価領域および会計原則 を起動する。
- 「新規エントリ」をクリックする。
- 評価領域「Z1」、会計基準「GAAP」を入力して、保存する。
差分転記ロジックのカスタマイズ登録
- SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>デルタロジック有効化 を起動する。
- 以下のデータを入力して、保存する。
評価領域 | Z1 |
デルタロジック (差分転記ロジック) | OFF |
消込日付 | OFF |
月次 Rev. (月次反対仕訳許可) | OFF |
評価差損益の勘定コード登録
勘定コードの登録
- G/L勘定コード登録(Tr-Cd:FS00)などから、外貨評価に必要な勘定コードを登録する。
※G/L勘定コードの登録方法:2-1.G/L勘定(総勘定元帳勘定)
勘定コード | テキスト |
---|---|
J00011 | 為替換算差損 |
J00012 | 為替換算差益 |
A00901 | 売掛金(外貨評価調整) |
勘定コードの割当:OBA1
- SPRO>財務会計>総勘定元帳>定期処理>評価>外貨評価>準備: 外貨評価自動仕訳 を起動する。
- 内部処理キー:KDF(換算レート差損益: 見消込明細/GL勘定) をダブルクリックする。
- 売掛金の勘定コードをダブルクリックする。
- 以下のデータを入力し、保存する。
評価差損 | J00011 |
評価差益 | J00012 |
貸借対照表調整 | A00901 |
外貨での得意先請求書を登録する:FB70
まず、未消込明細を用意するために、得意先請求書を登録する。
- 会計管理>財務会計>債権管理>伝票入力>請求書(Enjoy)(Tr-Cd:FB70)を選択する。
- 以下のデータを入力し、保存(転記)する。
伝票ヘッダ | |
得意先 | Customer01 |
請求書日付 | 2020/4/1 |
転記日付 | 2020/4/1 |
金額 | (任意) |
通貨 | USD |
「国内通貨」タブ | |
換算レート | 100.00 |
明細 | |
G/L勘定 | [P00001]売上 |
伝票通貨額 | * |
外貨評価の実行:FAGL_FC_VAL
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>債権管理>定期処理>決算処理>評価>未消込明細の外貨評価(Tr-Cd:FAGL_FC_VAL)を起動する。
- 以下のデータを入力して、実行(テスト実行)する。
一般選択 | |
会社コード | 1000 |
評価基準日 | 2021/3/31(会計期間の末日) |
評価領域 | Z1 |
「転記」タブ | |
テスト実行 | ON |
自動設定 | ON |
「未消込明細: 補助元帳」タブ | |
得意先評価 | ON |
得意先 | Customer01 |
「出力/技術設定」タブ | |
ログ出力 | ON |
ログ保存 | ON |
ログ名 | FCV_1000(任意) |
- 実行結果を確認する。評価差額の一覧が表示されるので、評価された金額を確認する。
- 「2転記」をクリックする。
→年度末に登録する評価差額の仕訳、期首に登録される反対仕訳が表示される。 - 前画面に戻り、転記モード「更新実行」を選択して実行する。
- 「2転記」をクリックする。
→評価差額の仕訳、反対仕訳の伝票番号を確認する。 - 伝票照会(Tr-Cd:FB03)にて評価差額の仕訳、反対仕訳を確認する。
照会、確認
財務諸表レポートの照会
財務諸表レポートでの売掛金の見え方を確認する。
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>総勘定元帳>情報管理>総勘定元帳レポート>財務諸表/キャッシュフロー>一般>実績/実績比較>財務諸表(Tr-Cd:S_ALR_87012284)を起動する。
- 以下のデータを入力して、実行する。
通貨タイプ | 10 |
会社コード | 1000 |
レポート年度 | 2020 |
レポート期間開始 | 01 |
レポート期間終了 | 12 |
- 売掛金調整勘定が転記されていることを確認する。
また、売掛金勘定と同じ階層に割当され、合計金額で売掛金が決算日の換算レートで評価した金額となっていることを確認する。
外貨評価の実行ログの照会
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>債権管理>定期処理>決算処理>評価>未消込明細の外貨評価(Tr-Cd:FAGL_FC_VAL)を起動する。
- 「出力/技術設定」タブをクリックする。
- 「ログ一覧」をクリックする。
- ログ一覧から実行したログを選択し、「ログ照会」ボタンをクリックする。
テーブル
テーブルID | 内容説明 | 備考 |
---|---|---|
– | – | – |
演習問題
※複数回答の設問あり。
※答えはドラッグすると見れる。
外貨評価で利用できる評価方法は、次のどれか。
A. 低価法
B. 常時低価法
C. 再評価
D. 再評価のみ
正解:ACD
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