概要
特殊仕訳取引について解説する。特殊仕訳取引は実務でもよく利用する機能のため、よく見返していただきたい。
カスタマイズ、トランザクションコード
- FBKP – 特殊仕訳設定
- F-37 – 前受金請求
- F-29 – 前受金転記
- F-39 – 前受金消込
- F-28 – 入金転記
- F-47 – 前払金請求
- F-48 – 前払金転記
- F-54 – 前払金消込
- F-53 – 支払転記
特殊仕訳取引
特殊仕訳取引とは
特殊仕訳取引の基本、代替統制勘定
特殊仕訳取引とは、得意先、仕入先マスタに登録されている統制勘定以外の統制勘定を使用する機能である。端的にいうと、買掛金ではなく未払金や前払金を計上する機能である。この「マスタに登録されている統制勘定以外の統制勘定」を代替統制勘定という。
また、どの代替統制勘定を使用するかを特殊仕訳コードで分岐する。
特殊仕訳タイプ
代替統制勘定の相手勘定によって3種類に分かれる。
特殊仕訳タイプ | 相手勘定の決定 | 使用例 |
---|---|---|
自動相手勘定入力 (統計転記) | 相手勘定をカスタマイズで決定 | 保証債務見返/保証債務 ※子会社が払えなくなった時など、支払保証の管理 |
備忘明細 | 相手勘定なし(片側仕訳) | 前受金請求、前払金請求の登録 ※メモの用途で利用するなど |
任意相手勘定入力 | 相手勘定を伝票で入力 | 前受金、前払金の銀行転記 ※相手勘定はG/L勘定 |
前受金の処理
特殊仕訳取引の使用例として、標準で用意されている前受金の処理を紹介する。通常の販売フローとあわせて記載しているので、比較してもらうと理解しやすい。
通常の販売フロー
前受金を用いた販売フロー(SD統合)
「(得意先)」と書いているのは、伝票入力時に得意先マスタを入力している箇所である。特殊仕訳コードを入力することで、計上する勘定が変わっている点に注目していただきたい。
前払金の処理
次に前払金の処理を紹介する。前受金と同様、通常の仕入フローとあわせて記載しているので、比較してもらうと理解しやすい。
通常の仕入フロー
前払金を用いた仕入フロー(MM統合)
「(仕入先)」と書いているのは、伝票入力時に仕入先マスタを入力している箇所である。特殊仕訳コードを入力することで、計上する勘定が変わっている点に注目していただきたい。
特殊仕訳取引のカスタマイズ
特殊仕訳取引のカスタマイズ:FBKP
特殊仕訳コードに関する設定は、複数の画面に別れている。Tr-Cd:FBKP – 特殊仕訳設定がすべてを統括した設定画面になっている。そのため、FBKPから各設定画面に遷移する形がよい。
設定画面は2画面に分かれている。勘定画面では、代替統制勘定にどのG/L勘定コードを使うのか、を設定している。
詳細画面では、特殊仕訳コードに対する制御を設定している。
与信限度
与信限度は、売掛金で処理できる金額の上限を決めている。得意先の与信限度チェックに特殊仕訳取引を含めるために利用する。
【例】 条件:売掛金の限度額:100万 売掛金:99万、前受金:5万、取引:2万 ・与信限度関連フラグ:OFF →2万の取引を行うことはできない ・与信限度関連フラグ:ON →2万の取引を行うことはできる ※99万 - 5万 = 94万となり、2万の取引を追加しても100万を超えないため
残高警告メッセージ
得意先、仕入先請求書の登録時、特殊仕訳コードの残高が残っていると、その旨の警告メッセージを表示する。
目標特殊仕訳コード
利用できる特殊仕訳コードを制御している。備忘明細に対してのみ有効。
特殊仕訳取引タイプ(特殊仕訳クラス)
特殊仕訳コードの用途に応じて、以下3つのどれかを選択する。「特殊仕訳クラス」と表記されていることもある。
特殊仕訳取引タイプ | 利用用途 |
---|---|
前受/前払金と前受/前払金請求 | その名のとおり、前受金/前払金関連の処理に利用する。 |
手形請求 | 手形関連(手形支払請求、手形、小切手など)の処理に利用する。 |
他タイプ | 上記以外の取引に利用する。 個別値調整(後述あり)、支払保証、金利、ユーザ定義したものなど。 |
転記キー
特殊仕訳取引の登録には、特殊仕訳コードとともに特殊仕訳取引用の転記キーが必要である。独自に定義することも可能だが、SAP標準の特殊仕訳用の転記キーも用意されている。
- 得意先用:[09]借方、[19]貸方
- 仕入先用:[29]借方、[39]貸方
独自に転記キーを設定する場合は、カスタマイズの「特殊仕訳」フラグをONにすること。
特殊仕訳コードを使い切ってしまった場合の対処
特殊仕訳コードのコード値は一桁のため、使い切ってしまう可能性がある。特殊仕訳コードを使い切ってしまった場合は、伝票入力時に手入力で統制勘定を変更(代替統制勘定を入力)して対応する。
その際、以下すべての条件を満たす状態にしておくこと。
- G/L勘定コードマスタの「統制勘定入力可能」をONにする
- G/L勘定コードマスタ(会社コードレベル)の「登録/銀行/金利タブ」の「統制勘定入力可能」にチェックをつける。
※統制勘定、代替統制勘定ともにONにする必要あり。
※項目が見当たらない時は、項目ステータスで非表示になっているか確認すること。
- G/L勘定コードマスタ(会社コードレベル)の「登録/銀行/金利タブ」の「統制勘定入力可能」にチェックをつける。
- 手入力で上書きできる代替統制勘定を定義する
- 次のカスタマイズで上書きできる統制勘定のリストをつくる。
SPRO>財務会計>債権管理および債務管理>会計トランザクション>代替統制勘定による転記>定義: 代替統制勘定
- 次のカスタマイズで上書きできる統制勘定のリストをつくる。
個別値調整
個別値調整とは、貸倒引当金を計上するための決算処理。貸倒引当金の計上は、手入力する方法と自動入力する方法があり、手入力する方法が個別値調整である。
※参考:9-8.評価調整(値調整)
個別値調整
個別値調整は、特殊仕訳を使用して貸倒引当金を計上する方法。貸倒引当金としていくら計上するのか、その際にどの勘定を使用するのかをすべてマニュアルで入力する。
特殊仕訳コードは「E」を使用し、相手勘定はマニュアルで入力する。また、反対仕訳についても、Tr-Cd:FB08を使用してマニュアルで登録する。
均一レート値調整
均一レート値調整は、自動で貸倒引当金を登録する方法。貸倒引当金としていくら計上するのか、その際に使用する勘定コードをカスタマイズで決めておく。つまり、計上金額も使用する勘定コードもすべて自動で決まる。
詳細は、9-8.評価調整(値調整)>均一レート値調整を参照。
カスタマイズ操作方法
今回は、特殊仕訳コードを利用した前払金のフローを一通り実施する。最初に必要なカスタマイズを設定し、その後フローに則って処理を実施する。
なお、備忘明細の前払金請求を登録する手順となっているが、任意処理のためスキップしても構わない。
事前準備、カスタマイズ
前払金、前払金請求の特殊仕訳コードを設定
- 特殊仕訳設定(Tr-Cd:FBKP)を起動する。
- 「特殊仕訳」ボタンをクリックする。
- 「登録」ボタンをクリックする。
- 以下のデータを入力し、Enterを押下する。
※既存のエントリがある場合は、それを利用する。
勘定タイプ | [K]仕入先 |
特殊仕訳コード | A |
名称 | 前払金 ※任意 |
テキスト | 前払金 ※任意 |
- 以下のデータを入力し、保存する。
- 同様に、前払金請求の特殊仕訳コードを登録する。なお、登録データは以下とする。
勘定タイプ | [K]仕入先 |
特殊仕訳コード | F |
名称 | 前払金請求 ※任意 |
テキスト | 前払金請求 ※任意 |
備忘明細 | ON |
目標特殊仕訳コード | [A]前払金 |
特殊仕訳取引タイプ | 前受/前払金と前受/前払金請求 |
前払金、前払金請求の勘定コードを登録
- G/L勘定コード登録(Tr-Cd:FS00など)から以下の勘定コードを登録する。
※参考:G/L勘定コードの登録方法
前払金 | 前払金請求 | |
---|---|---|
テキスト | 前払金 ※任意 | 前払金請求 ※任意 |
G/L勘定タイプ | 貸借対照表勘定 | 貸借対照表勘定 |
税カテゴリ | [*]全消費税 | [*]全消費税 |
税コードなしの転記可 | ON | ON |
勘定タイプの統制勘定 | 仕入先 | 仕入先 |
前払金、前払金請求の勘定を特殊仕訳コードに割当
- 特殊仕訳設定(Tr-Cd:FBKP)を起動する。
- 「特殊仕訳」ボタンをクリックする。
- 「[A]前払金」をダブルクリックする。
- 「勘定」ボタンをクリックする。
- 以下のデータを入力し、Enterを押下する。
統制勘定 | (買掛金の勘定コード) |
特殊勘定コード | (前払金の勘定コード) |
- 前払金請求についても同様に設定する。
前払金の処理
今回は伝票の入力項目の詳細を記載しない。各環境に合わせて入力いただきたい。入力項目の重要なポイントのみ説明する。
前払金請求:F-47 ※任意
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>債権>伝票入力>前払金>請求(Tr-Cd:F-47)を起動する。
- 仕入先コード「Vendor01」、目標特殊仕訳に「[A]前払金」を入力する。
※目標特殊仕訳に入力するのは、「F」ではないことに注意。 - 伝票を登録(保存)し、登録された伝票を確認する。
→「-/前払金請求(仕入先)」の仕訳が登録されていることを確認する。 - 仕入先明細照会(Tr-Cd:FBL1N)で未消込明細を照会する。
※タイプ「標準明細」「特殊仕訳取引」をONにする。
→備忘明細は表示されないことを確認する。 - 前画面に戻り、「備忘明細」をONにして照会する。
→備忘明細が表示されることを確認する。
購買発注:ME21N
- SAPメニュー>ロジスティクス>在庫/購買管理>購買管理>購買発注>変更(Tr-Cd:ME21N)を起動する。
- 仕入先に「Vendor01」を入力して、伝票登録する。
- (以下、伝票の確認方法)
- SAPメニュー>ロジスティクス>在庫/購買管理>購買管理>購買発注>照会(Tr-Cd:ME23N)を起動する。
- メニューバー>購買発注>他購買発注 をクリックし、登録した購買発注伝票を入力して、Enterを押下する。
前払金の支払:F-48
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>債権>伝票入力>前払金>前払金(Tr-Cd:F-48)を起動する。
- 以下のデータを入力し、Enterを押下する。
勘定(仕入先コード) | Vector01 |
特殊仕訳コード | [A]前払金 |
勘定コード(銀行勘定) | (任意の預金勘定) |
金額 | (任意) |
- 伝票を転記(保存)し、登録された伝票を確認する。
→「前払金(仕入先)/預金」の仕訳が登録されていることを確認する。 - 仕入先明細照会(Tr-Cd:FBL1N)で未消込明細を照会する。
※タイプ「特殊仕訳取引」をONにする。
→前払金が表示されることを確認する。
入庫:MIGO
- SAPメニュー>ロジスティクス>在庫/購買管理>購買管理>購買発注>後続機能>入庫(Tr-Cd:MIGO)を起動する。
- 購買発注伝票に対して、入庫伝票を登録する。
- (以下、伝票の確認方法)
- 画面中央上部のプルダウンから「照会」、「入出庫伝票」を選択し、登録した入庫伝票を入力する。
- 画面中央の「伝票情報」タブをクリックする。
- 「会計伝票」をクリックし、ポップアップで「会計伝票」をダブルクリックする。
→「商品/入庫請求仮勘定」の仕訳が登録されていることを確認する。
請求書照合:MIRO
- SAPメニュー>ロジスティクス>在庫/購買管理>購買管理>購買発注>後続機能>ロジスティクス請求書照合(Tr-Cd:MIRO)を起動する。
- 購買発注伝票に対して、請求書照合を登録する。
- (以下、伝票の確認方法)
- メニューバー>請求書伝票>照会 をクリックする。
- 登録した請求書照合伝票を入力し、Enterを押下する。
- 「後続伝票」ボタンをクリックし、ポップアップで「会計伝票」をダブルクリックする。
→「入庫請求仮勘定、消費税/買掛金(仕入先)」の仕訳が登録されていることを確認する。 - 仕入先明細照会(Tr-Cd:FBL1N)で未消込明細を照会する。
※タイプ「標準明細」「特殊仕訳取引」をONにする。
→前払金、買掛金が未消込であることを確認する。
前払金の消込:F-54
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>債権>伝票入力>前払金>消込(Tr-Cd:F-54)を起動する。
- 以下のデータを入力し、Enterを押下する。
勘定(仕入先コード) | Vector01 |
請求書 | (請求書照合で発生した仕入先請求書の伝票番号) |
- 前払金の一覧が表示されるので、登録した前払金に対して「振替転記」に全額を入力する。
- 伝票を転記(保存)し、登録された伝票を確認する。
→「買掛金(仕入先)/前払金(仕入先)」の仕訳が登録されていることを確認する。 - 仕入先明細照会(Tr-Cd:FBL1N)で未消込明細を照会する。
※タイプ「標準明細」「特殊仕訳取引」をONにする。
→前払金が消込され、買掛金のみ未消込であることを確認する。また、未消込の金額をメモしておく。
残高の支払:F-53
- SAPメニュー>会計管理>財務会計>債権>伝票入力>銀行支払>転記(Tr-Cd:F-53)を起動する。
- 以下のデータを入力し、Enterを押下する。
勘定コード(銀行勘定) | (任意の預金勘定) |
金額 | (先ほど確認した未消込の金額) |
勘定コード(仕入先コード) | Vector01 |
- 未消込の買掛金一覧が表示されるので、未消込の買掛金明細(2明細)を選択し、消込を転記する。
※消込転記の方法がわからない場合は、5-1.未消込明細の消込参照。 - 登録された伝票を確認する。
→「買掛金(仕入先)/預金」の仕訳が登録されていることを確認する。 - 仕入先明細照会(Tr-Cd:FBL1N)で未消込明細を照会する。
※タイプ「標準明細」「特殊仕訳取引」をONにする。
→すべての前払金、買掛金が消込されていることを確認する。
テーブル
テーブルID | 内容説明 | 備考 |
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